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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)33号 判決

被告人

伊藤文吉こと

鄭夏

主文

原判決を破棄する。

本件を岐阜地方裁判所大垣支部に差戻す。

理由

当裁判所は本件につき職権をもつて調査するに、原判決が被告人に対する犯罪事実の認定に供した証拠中被告人に対する司法警察員作成第一回供述調書並に松本敬一、金万沢、原本容申に対する医師吉田誠三作成各診断書については原審公判調書を精査するも同審において適法な証拠調の為された事跡が認められない。尤も右各診断書については司法警察員が右被害者松本敬一、金万沢、原本容申の各供述を録取しその各供述(第一回)調書を作成するにあたり同人等より夫れ夫れ提出されてこれを当該供述調書末尾に添附したものである(松本、原本の各診断書については当該供述調書末葉との間に契印されてある)ことは記録上窺い得るところであり、また右各被害者の供述調書については原審公判において検察官のこれが取調請求に対し被告人並に弁護人がいずれもこれを証拠とするに同意し、適法にその証拠調が行われたものであることは同公判調書によつて明らかであるが、前記診断書は右供述調書とはもとより別異の証拠書類であつて、同供述調書に右の如く添附されたからとてその一部となるべきものでもないので、右各供述調書に対する証拠調の施行によつて右各診断書の証拠調も為されたものとは断じ難い。かくて原判決は適法な証拠調を経ない右各診断書並に被告人の供述調書を断罪の資料に供した違法があるものというべく、そして同判決はこれらと他の証拠とを不可分的に綜合して前記犯罪事実を認定したものと認められるので、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとなすべきであるから、この点において原判決は破棄を免がれない。

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